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腹部大動脈瘤について (第13版) 2016年4月6日 開腹手術の併存疾患数と手術成績

血管外科 古屋隆俊

はじめに

最近の1年3ヶ月間の症例 (非破裂瘤 40例、破裂瘤 12例) の成績を追加し、全国の病院との比較グラフ(入院日数、入院費用)の最新版を追加しました。また2015年1月から血管内治療(EVAR : Endovascular aneurysm repair) を開始し、1年3ヶ月で12例施行していますが、この文章はあくまで、開腹手術による腹部大動脈瘤の解説と成績が中心となっています。

成因

大動脈瘤の成因は不明ですが、何らかの原因で大動脈壁の弾性線維や膠原繊維がもろくなり、しなやかさが無くなって徐々に拡張した結果が大動脈瘤です。弾性線維がもろくなる危険因子として高血圧・高脂血症・遺伝・喫煙などが挙げられます。

症状

へそ周囲の腹部に拍動する腫瘤があれば腹部大動脈瘤が疑われますが、太っていると分かりにくいです。動脈瘤は急に拡大したり破裂しない限り無症状です。つまり無症状だから安心なのではなく、症状が出るのは破裂する直前か破裂した後なので、その時では遅いのです (大動脈瘤は“Silent Killer”とも言われます)。

診断

触診、腹部エコー、CTで診断できますが、長く病院に通っていてもこれらの検査をしないと見逃されます。年に1回は人間ドックなどで腹部エコーの検査を受けましょう。

手術適応

腹部大動脈の正常の太さは1.5~2cmで、1.5倍以上の拡大 (すなわち3cm以上) は動脈瘤です。径4cmまではゆっくりと、4cmを越えると年に0.1~0.5cmずつ拡張し、大きくなるほど破裂の危険が高くなります。因みに過去23年間に当院で手術した破裂性腹部大動脈瘤152例の大きさは平均7.5cm (5~12cm) でした。一般に5cm以上の大動脈瘤は手術適応ですが、経過観察中に急速に拡大したり、一部突出した形 (嚢状瘤) を呈するもの、小柄な方(正常部の大動脈径が1.5cmくらい)では4cm台でも拡大率が大きければ手術を勧めています。

万一破裂した場合、急速に1,000~2,000mlの大出血が起こるので約1/2~2/3の方はその場で心臓が止まってしまいます。約1/3の方は一旦止血されて病院まで辿り着きますが、必ず再破裂し重症ショックとなります。緊急手術を行っても約半分の方は亡くなるとされ、結局、破裂による死亡率は80~90%となります。この数字は欧米でも日本でも過去40年間、全く改善されていません。一方、破裂する前に手術すると死亡率は1~4%です (当院の予定手術の死亡率は1.16% (9/775)です)。

当院では術前の併存疾患の数や程度、年齢によらず、大きさが5cm以上で、病気を理解され、 禁煙が守られる方には積極的に手術を行っていますが、禁煙を守れない方の手術をお断りしています (理由は【手術成績】と【喫煙について】を参照) 。

心臓、肺、腎臓に重篤な病気があると、破裂時はショック状態と出血傾向(大量出血により血液の凝固因子や血小板が消耗したり、持病の心筋梗塞・脳梗塞後に抗血小板剤や抗凝固剤を内服中など)などで、ますます助かる可能性が低くなります。それゆえ高齢者や複数の合併症を有する患者さんでも、破裂する前に手術する方がより救命の可能性が高く安全と考えています。

他の治療法との比較

内科的な治療として降圧療法がありますが、血圧を正常に保っても動脈瘤は必ず拡大するので、降圧療法は破裂の予防にはなりません。手術以外の方法として、脚の付け根よりカテーテルを挿入し、動脈瘤の中に人工血管を挿入する方法 (Stent-graftによる血管内治療=EVAR) があります。この方法は胸部大動脈瘤(特に下行大動脈瘤のように枝のない単純な形態の場合) では開胸手術のリスクと比較して優れた方法であります。しかし腹部大動脈瘤では腎動脈との位置関係、大動脈や腸骨動脈の蛇行や石灰化、下肢動脈の閉塞性病変、動脈瘤の数(1~5個)が症例ごとに異なり、適応に制限があったり、血管損傷や動脈塞栓(後述)の危険性、遠隔期に動脈瘤が拡大するなど将来も破裂の危険が残る(自己の大動脈が拡張して人工血管が移動したり、瘤内の枝からの血流による)可能性もあり、未だ5~10年後の安全性と耐久性は不明で、生涯にわたる血管造影やCT等の検査が必要となり、医療費の増加と放射線被曝の問題があります。

また、動脈内の血栓や粥腫が剥がれて末梢に飛ぶ塞栓症は、血管内治療 (EVAR) の宿命と言うべき合併症です。血管内をカテーテルなどで操作することで大動脈内の血栓や粥腫(壁に沈着した脂肪塊のようなもの)を腎動脈や内臓動脈、下肢動脈へ飛ばす危険があることと、造影剤 (腎毒性があります) を用いた検査を生涯続けるので、EVAR術後の患者さんは、約1%が術後早期や遠隔期に慢性透析が必要となると言われています(当院の808例で慢性透析となった症例はありません)。

一方、手術治療は粥腫を除去して人工血管を吻合したり、狭窄部を越えてバイパスを追加するなど、どんな動脈瘤にも対応可能で長期の耐久性や信頼性もあり、現在でも最も確実な方法です。80歳の患者さんの平均余命は男性で8.7年、女性で11.7年ですので、10年以上耐久性のある治療法が必要です。

入院医療費

外来検査費用を含まない入院医療費ですが、Stent-graft 1本は約160万円、術中の小さなトラブルに対する追加ステントや手技料、検査費などを含めた入院総医療費は約330万円です。一方、当院の開腹手術による腹部大動脈瘤手術の入院医療費は平均131万円です(個室料金を除く)。2013年~2015年の3年間、DPCデータを用いた検討では全国500症以上の病院50施設中で最も安価な医療費でした(図1)。このように、故諸橋名誉院長の言葉である「医学的に正しく、早く、安く、親切に治療する」の実践を心がけております。


  • 図 1 入院費用比較(500床以上) 2013年1月-2015年12月