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大動脈弁狭窄症の新しい治療法
TAVI(経カテーテル大動脈弁植え込み術)について

大動脈弁狭窄症とは

心臓は右心房、右心室、左心房、左心室の4つの部屋から構成され、全身に血液を送り出しては戻すポンプの役割をしていますが、血液が一方向に流れ、逆流しないよう、部屋と部屋の間に扉のようなものが付いています。

これが「弁」と呼ばれるもので、血液が左心室から全身に出て行くときに通過する扉が大動脈弁です(図1)。


  • 【図1】心臓の構造
    提供:エドワーズライフサイエンス株式会社

大動脈弁狭窄症というのは加齢等により弁が硬くなることで出口が狭くなり、心臓から全身に十分な量の血液が送り出されなくなる状態です(図2)。


  • 【図2】大動脈弁狭窄症
    提供:エドワーズライフサイエンス株式会社

例えるなら錆付いた扉をこじ開けるようなものですから心臓には大きな負担がかかることになります。このような状態が長く続くことで心臓の働きが悪くなると、次第に疲れやすさ、息切れ、動悸、さらに進行すると、狭心症、失神、心不全などの症状が現れてきます。統計では65歳以上で大動脈弁狭窄症と診断される人の割合は2~4%とされており、高齢化の進行により、当院でも患者数、高齢患者さんの割合、ともに増加傾向にあります(図3)。


  • 【図3】左:旭中央病院の大動脈弁狭窄症患者数 / 右:年齢別患者数と死亡率 

大動脈弁狭窄症の新しい治療法「TAVI」

大動脈弁狭窄症の標準治療は、硬くなった弁を手術で人工弁に取り換える「大動脈弁置換術(Surgical Aortic Valve Replacement )」ですが、胸を大きく切開し、人工心肺装置を用いて一時的に心臓を止めて行う大がかりな手術のため、ご高齢であったり、他の疾患をお持ちなどリスクのある方々に行うことは困難でした。

そこで、このような患者さんに対する新しい治療法として開発されたのが 「経カテーテル大動脈弁植え込み術(TAVI:Transcatheter Aortic Valve Implantation)」で、日本でも2013年より保険適用されています。これは鼠径部(太ももの付け根)等からカテーテルという細い管を入れて、人工弁を心臓まで到達させ、留置する治療法です(図4)。胸を大きく切開したり、心臓を止める必要が無いので、患者さんの体への負担が少ないことが最大のメリットです。施術時間も短く済み、術後も早く回復することが期待できます。

【図4】TAVIの治療手順:
(A) 鉛筆ほどの太さに折りたたまれた生体弁を装着したカテーテルを1cm弱の小さな穴から太ももの付け根にある大腿動脈に入れて、心臓まで運びます。
(B) 生体弁が大動脈弁の位置に到達したらバルーン(ふうせん)を膨らませ、生体弁を広げ、留置します。
(C) 生体弁を留置した後は、カテーテルを抜き取ります。
(D) 生体弁は留置された直後から、患者さんの新たな弁として機能します。
     提供:エドワーズライフサイエンス株式会社


これまで当院の診療圏(半径30km)にはTAVIを導入している施設がなく、TAVI適応の患者さんには遠方の大学病院等で治療を受けていただく必要がありました。当院は、多職種から構成される特別編成の「ハートチーム」を結成し、重症の大動脈弁狭窄症に対する 「経カテーテル大動脈弁植え込み術(TAVI)」実施施設として、2019年千葉県東部地区で初めて認定されました【注1】。TAVI導入後は2019年度に19例、2020年度8月までで24名に治療を行っています【注2】


【注1】TAVIは厳しい施設基準を満たし、「経カテーテル的大動脈弁置換術関連学会協議会」による認定を受けた医療機関でのみ行うことができます。施設基準として、○心臓手術・カテーテル治療や心臓検査等の実績、 ○専門医等の常駐、 ○ハイブリッド手術室(設置型透視装置を備えた手術室)の設置、 ○手術適応から手技および術前術中術後管理にわたり、ハートチームがバランスよく機能していること、などが必要です。


【注2】TAVIは希望すれば誰もが受けられる治療ではありません。体力の低下や他の疾患などのリスクにより外科的手術(大動脈弁置換術)が困難な患者さんのみ(医師が判断)が対象となります。


※ハートチーム

ハートチームは、医師(循環器内科、心臓外科、麻酔科)、看護師(中央手術室、血管撮影室、病棟)、診療放射線技師、理学療法士、臨床工学技士(中央手術室、血管撮影室)等の多職種より構成されています。


広報誌「こんにちは」第25号[2020年1月発行]にて、TAVIについての情報や当院の取り組みなどを紹介しております。