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腹部大動脈瘤について (第13版) 2016年4月6日 開腹手術の併存疾患数と手術成績

はじめに

血管外科 古屋隆俊

はじめに:最近の1年3ヶ月間の症例 (非破裂瘤 40例、破裂瘤 12例) の成績を追加し、全国の病院との比較グラフ(入院日数、入院費用)の最新版を追加しました。また2015年1月から血管内治療(EVAR : Endovascular aneurysm repair) を開始し、1年3ヶ月で12例施行していますが、この文章はあくまで、開腹手術による腹部大動脈瘤の解説と成績が中心となっています。

 がんセンターなどで「喫煙患者には肺癌の手術はお断り」という新聞記事がありましたが、私は就任当初からその方針を貫いてきました。入院後に禁煙できていないことが判り (看護師が伝えてきます)、手術は即中止、そのまま帰っていただくことも稀ならずありました。時には患者さんと喧嘩することもあります。それくらい真剣にならないと喫煙の害を本気で分かってもらえません。

 喫煙は大動脈瘤の発生因子であるばかりでなく、破裂の誘因であることも証明されています。さらに手術の合併症を起こしやすくするだけでなく、術前合併症数 (危険因子) が一つ増えるので死亡率を増加させます (【手術成績】 を参照)。昨今、医療ミスが話題になりますが、医療者が手を抜いたり、サボったり、いい加減な治療をしたらどんな患者さんも家族の方も怒るでしょう?   煙草を止めずに手術を受けようというのは、患者さん側の誠意・真剣さ・努力の不足であると思います。「煙草をこっそり吸っていても大丈夫だろう」という安易な気持ちでは手術はうまくいきません。手術をするということは命がけのこと、医師も患者も真剣勝負でなければ決して良い結果は得られません。予定手術の死亡率をゼロにすること、予定手術+緊急手術の全体の成績を向上させることが、私の永遠の目標であり、是非ご理解とご協力をお願い致します。

付録

血管外科診察室でのよくある会話

場面その1:
患者:「すべてお任せします。まな板の鯉ですよ」
医師:「『すべてお任せします』ということは、何があっても文句を言わないということですよ。たとえ手術が不成功でも死亡しても、文句言わないってことですよ。それで、いいんですか? 初対面の医師にそんなに簡単に命を預けていいんですか ? 」
場面その2:
患者:「どういうことに気をつけたら、病気が良くなりますか? 」
医師:「血管疾患は変性疾患といって、一度悪くなった血管は良くなりません。人は血管とともに老いるので、心臓でも脳でも腎臓でも血管が詰まれば命が危うくなります。つまり血管が悪くなれば人生が終わりに近づくということです。足の血管が急に詰まった患者さんの 1/4は、そのまま亡くなります。身体の一部を生かし続けることができなくなったということですから。30〜50年前にさかのぼって、タバコを吸わない人生をやり直すしかありませんね。(隣で聞いている、喫煙しているだろう息子さんへの警告を込めて)」
場面その3:
医師:「タバコをやめないと手術はしません」
患者:「やめないとだめですか ?」
医師:「タバコは自分の食事に少しずつ毒を混ぜて、30〜50年かけてゆっくり自殺しようとするのと同じです。僕らが手術やその後の治療に手を抜いて、いい加減な診療をしたら、誰だって怒るでしょう ? 同じように、自分は禁煙せず、手術に向けた努力もせずに、医者が手術を100%成功させるのは当たり前だという考えでは僕らの方が怒りますよ。手術は命がけの行為です。医者も患者さんも双方が精一杯努力して、初めて成功するんです。禁煙せずに手術を受けるのは、患者さんが本気になっていないということです。真剣に病気と立ち向かう意志がない患者さんを、僕らは助けることはできません。もし手術前に喫煙が判明したら、手術は中止して即退院していただきます」
場面その4:
患者:「どの医者もそんなにタバコが悪いなんて言わなかったぞ。」
医師:「内科の先生も開業医の先生も、優しいし、忙しいからそれほど強く言いません。時間をかけて説得しても収入は増えませんから。僕は千人以上タバコにより、人生の後半で激痛や死の危険にさらされて苦しんでいる、後悔している患者さんばかり診ているので、タバコを完全にやめてもらうのが使命と考えています。手術をするかしないかの最後の砦として、喫煙者はこの先を通さないぞ、というつもりでやっています。こちらが真剣にお話しすれば、皆さん、分かって止めてくれますよ」
場面その5:
患者:「医者は病気を治すのが仕事だろう?手術の失敗は、車で言ったら、いい加減な修理をしたり欠陥車を売りつけるのと同じではないか ? 」
医師:「車に限らず、工業製品は均一に同じ完成品を作ることができます。すなわちエンジン、足回り、車体その他すべての部品を交換すればいつまでも "若返る" ことは可能です。しかし人間 (あなた) の場合は、タバコという毒を吸い続けた結果、何十年もかけて自分で病気を作って老化してきた(ポンコツ車になった)のです。心臓・肝臓・脳・肺・身体・手足をすべて取り替えて生きることはできないでしょう。不老長寿の薬は古今東西、誰も手に入れられなかったように、人間には神様が決めた寿命があります。医者はその人の治ろうとする生命力を妨げないように努力はできますが、その人の寿命や運命まで変えることはできません。

最後に・・・「タバコと命と、どちらが大切ですか?」