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下肢静脈瘤(改訂版)(外科血管外科:古屋隆俊)

はじめに

下肢静脈瘤は良性疾患ですが“瘤”という言葉から“動脈瘤”を連想し「破れて死ぬのでは」とか、“循環が悪い”と言うと「切断になるのか」と心配する方がいます。また「放っておいて大丈夫か」の問いに「時とともに悪化する」とうっかり話すと、外来の貴重な時間を失うことになりますので、静脈瘤に対する私見を述べたいと思います。

形態的分類

下肢静脈瘤は何らかの原因で静脈弁が壊れ、立位で血液が逆流し、下肢の静脈圧が上昇して徐々に拡張・瘤化したものです。立仕事(床屋、美容師、飲食業など)と関連があり、妊娠を契機に発症することもあります。形態から以下の4つに分類されます。

  1. 伏在静脈瘤:大・小伏在静脈の本幹とその主要分枝の拡張。最も多いタイプ。
  2. 側枝静脈瘤:さらに末梢分枝の拡張。
  3. 網目状静脈瘤:径2~3mmの皮下小静脈の拡張で、青色の網目状。
  4. クモの巣状静脈瘤:径1mm以下の皮内細静脈の拡張で、紫紅色。

症状

立位での静脈血の逆流が本質なので、静脈鬱滞による症状が主なものです。また、臥位では逆流や鬱滞は起きませんから、臥位でも症状(下肢の痛み、しびれ)がある場合は、腰部脊柱管狭窄症・変形性膝関節症など、整形外科疾患が原因である可能性があります。

a)皮膚炎

静脈が累々と拡張していても、無症状の方も多いです。軽度なものでは、夕方の下肢のむくみ、だるさがあります。皮膚の循環障害から皮膚炎(湿疹)を起こしやすく、かゆみ、発赤、色素沈着となり、さらに重症化すると皮膚皮下脂肪の硬化、皮膚潰瘍を伴うようになります。

b)血栓症

静脈鬱滞から血栓が生じると、静脈瘤が硬く赤く腫れ、血栓性静脈炎となります。この血栓は生命には問題ありませんが、強い炎症なので強力な消炎鎮痛剤(ステロイド、後述)を使用します。

c)静脈性潰瘍

静脈瘤は累々とひどくても血栓や静脈炎、皮膚炎は稀ですが、瘤が軽度な割に炎症を繰り返し、色素沈着や皮膚硬化が強い例があります。これは下腿の穿通枝(表在静脈から深部静脈へ交通する静脈)の弁の逆流によるものです。立位で穿通枝の逆流→皮下静脈圧の上昇→皮膚の循環障害→皮膚の栄養障害→皮膚炎・皮膚硬化→潰瘍(外傷を契機に難治性潰瘍となる場合もあります)という経過を辿ると考えられます。

治療法

1.保存療法

保存療法として、弾性ストッキング(後述)の着用、下肢挙上位での就寝、血栓予防のための小児用バファリンなどがあります。
高度な皮膚炎や血栓症に対しては、2週間ステロイド剤を使用し軽快してから手術を行います。繰り返す皮膚炎や難治性潰瘍に対しては下腿の穿通枝の処理が必要です。この手術は術後の浮腫・疼痛が長引き、傷の治癒が遅れ、長期の通院を要するので、潰瘍となる前に弾性ストッキングでの予防が大事です。

2.手術療法

前述の症状が強く日常生活に困る場合、または美容面で治療を希望すれば手術治療を行います。

a)手術適応
手術対象は主に伏在静脈瘤ですが、静脈瘤があるからすぐ手術と言う訳ではありません。絶対適応(医者から勧める場合)は、血栓性静脈炎(静脈瘤に固く痛いしこりができ、赤く腫れます)、皮膚炎(湿疹)、色素沈着(湿疹の後遺症)、蜂巣炎(皮下組織の炎症)、皮膚潰瘍などです。相対適応(患者さんが希望する場合)は、美容面の愁訴(スカートがはけない、見た目が悪い)、夕方の下肢のむくみ、だるさ等が挙げられます。
b)手術方法
手術の手順は、(1)脚の付け根に4cm、内くるぶしに2cm、皮膚を横に切開し、大伏在静脈(弁が壊れた、逆流の原因の静脈)を露出。(2)中にワイヤーを通す。(3)拡張した静脈瘤を2~3cmの横切開で“掘り出す”。(4)ワイヤーを引き抜いて、大伏在静脈を抜去。(5)抜去部に、出血を減らすため血管収縮剤を散布。(6)10分間圧迫、皮膚を2層に縫合します。
c)術後経過
手術は腰椎麻酔(又は全身麻酔)で行い2~3時間で終わります。表面の手術なので身体への負担は少なく高齢者でも安全です。翌日より歩行可能ですが、2~3日は痛むので痛み止めを飲んでいただきます。3~4日で痛みも和らぎ、7日目に脚の付け根の創を抜糸して退院ですが、2~3日で退院されても結構です。14日目に外来で残りを抜糸して治療は終わります。
d)合併症対策
合併症を減らすには、(1)出血量を減らすこと(皮下出血や血腫を抑え、疼痛を少なくする)、(2)神経障害を予防すること、(3)傷を小さくきれいに治すことが挙げられます。出血は静脈抜去時に起こり、術後の血腫・硬結・疼痛の原因となります。従来は出血を減らす方法は下肢挙上・圧迫法でしたが、カテーテルを用いて血管収縮剤を散布することで、皮下出血を減少させています。神経障害(永続するしびれ、疼痛)は静脈抜去時に伴走する伏在神経への損傷が原因ですが、静脈末梢部を 10cm剥離して愛護的に末梢方向に抜去することで障害は経験していません。傷は横に小さく(2~4cm)切開するのでほとんど目立ちません。

3.硬化療法

硬化療法は静脈瘤内に硬化剤を注入後圧迫し、炎症を起こして静脈瘤を閉塞させ“消失”させる方法です。側枝静脈瘤・網目状静脈瘤・クモの巣状静脈瘤は良い適応ですが、マスコミで言うほど良いことずくめではありません。疼痛・血栓性静脈炎(8~30%)・硬結・色素沈着・皮膚壊死(2~10%)などの合併症があり、再発で何度も治療を要したり、稀ですが肺塞栓の可能性もあり、処置後に新たな苦痛となりかねないので、現時点では硬化療法を行っておりません。

弾性ストッキング

手術が不要な患者さんや術後の患者さんに対して、弾力性の強いストッキングの着用を勧めています。この際、足首→下腿→大腿と圧迫力が徐々に弱くなる、着用が負担にならない、脚に合ったサイズであることが大事です。外科でサイズを測って処方箋のような用紙をお渡ししますから、それを持って院内の売店で注文・購入してください。(価格や納期等の詳細は売店にお問い合わせください。)

最後に

下肢静脈瘤について相談されたい方は、月・火・木・金の午前、外科(血管外科)の外来にいらしてください(たくさん来られても困りますが)。