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気管支喘息について小児科の立場から(小児科:本多昭仁)

小児の気管支喘息患者は増加しています。ある統計によれば、学童期における有病率はこの30年間で約4倍(1.7%から6.6%)になっています。増加した理由としては家屋構造や生活様式の変化によるダニの増加、大気汚染の影響などが考えられています。

多くの喘息のお子さんは2歳から3歳までの間に発症し、12歳から15歳の思春期の頃に軽快していきますが、20%から30%の患者さんは成人喘息に移行していきます。

最近では、小児の気管支喘息は気管支の慢性炎症が本態であり、大部分がアレルギー性炎症であると考えられています。炎症が増悪すると喘息発作として症状が認められますが、発作が起きていないときでも軽度の炎症が持続しているので、気管支のリモデリング(気管支の内腔が狭くなってしまったままの状態)を防ぐためにはその炎症を静めて発作の無い状態をできるだけ長期に維持していくことが大切です。

小児の気管支喘息の患者さんの約80%から90%にイエダニに対するアレルギー反応が認められます。他には、カビ、犬や猫などの動物の毛・ふけ、花粉などもアレルギーの原因となります。また、感冒やインフルエンザ罹患、たばこの煙などの空気の汚染は喘息発作の誘因になります。

小児の気管支喘息の治療目標は以下のようなものです。

  1. (軽い)スポーツも含め日常生活を普通に行う(学校などを欠席しない)
  2. 昼夜を通じて症状がない
  3. 発作止めの薬の頓用が減少、または必要がない
  4. 肺機能がほぼ正常
  5. 小児の成長(身体的、精神的、社会的)を妨げない

小児気管支喘息の治療には、今起きている発作を止めるための治療である対症療法と、これから発作が起きるのを防ぐための予防療法があり、薬剤としては前者には発作治療薬(気管支拡張剤が主体)、後者には長期管理薬(抗炎症薬が主体)が用いられます。予防療法を長期に継続することにより、無治療無投薬の状態である寛解を目指します。

小発作では水分補給や排痰、腹式呼吸などの薬物によらない治療でも頓挫が可能な場合がありますが、中発作以上では我慢をすることなく直ちに吸入療法などの薬物療法を開始するほうが賢明です。中発作が遷延したり大発作に移行すると入院治療が必要になりますし、発作が長引いたり繰り返したりすると将来寛解しにくくなるからです。

気をつけなければいけない発作時の症状には、鼻翼呼吸(小鼻が開くような息づかい)、陥没呼吸(息を吸うとき、のどの下などがひっこむ)、起座呼吸(苦しくて横になれない)、チアノーゼ(唇、つめが紫色から白っぽくなる)、意識障害(不穏状態、意識混濁、意識消失)、喘鳴の減弱(とても苦しそうなのにゼーゼー、ヒューヒューが聞こえなくなる)などがあります。そして、喘息死という最悪の事態を回避するのに最も大切なことは、いつもと様子のちがう発作ではすぐに病院に行く、ということです。

小児の喘息死は思春期や青年期に多く、関係する要因には、予測不可能な急激な悪化、適切な受診時期の遅れ、患者や家族・医療者の判断の誤り、発作止めの乱用(特に吸入薬)などがあります。死亡された患者さんの死亡前1年間の重症度は、重症44%、中等症30%、軽症26%とする報告があります。

アレルギーの原因としてのイエダニ対策として、埃を減らすこと(埃を減らせばダニも減ります)とカビを防ぐことが重要です(カビはダニの餌になります)。このためには、じゅうたん・カーペットはできるだけ使用しない、家具・調度品は掃除しやすい配置にして、できるだけこまめに掃除を行う、ふとん類は頻繁に干し、よくたたいた後は両面を掃除機で吸い取る、犬や猫などの毛の生えた動物は室内では飼わない、などが勧められます。